―――心臓が、少し熱い。
「何もねぇなら良いけど」
「うん」
「何かあったら、真っ先に俺に言えよ」
「え…っ」
「何だ、そのマヌケ面。……返事は?」
「………、うん。分かった」
「良し」
矢沢君は満足そうにそう言うと、いきなりあたしの頭を優しくポンポンと撫でて来た。
あたしはそんな矢沢君の行動に一瞬小さく肩が跳ねて、心臓もドクンと跳ね上がる。
「………」
………けど、矢沢君ごめんね。あたしはきっと矢沢君には何があっても絶対に言わないと思う。
いつのまにか夏祭りの時の写真が撮られていて、その所為で小さな嫌がらせや悪口が飛び掛かって来ているって言う事。
多分、いや、絶対に言えないだろう。
そんな独り言をうんぬんと考え込んでいると、いきなり矢沢君の方から、小さなバイブ音がそっと聞こえて来た。
「あぁ、悪ぃ。メール」
「うん」
矢沢君が携帯を確認したかと思うと、何故かいきなり「チっ」と小さな舌打ちをひとつ吐き捨てた。
「…蒼稀が呼んでる。そろそろ行かねぇと。こっちから呼んでおいて悪かったな。じゃあな」
「あ、うん。大丈夫だよ。……じゃあ」
あたしがそう言うと、矢沢君は嫌そうな溜め息を一つ吐き捨ててこの場からさっさと遠のいて行ってしまった。

