その後、今日も矢沢君と接する事が一度もないまま、呆気なく時間だけが過ぎて行った。
長い学校を終えて家に帰るとすぐさまベッドに自分の体を沈めた。

抱きしめた枕に顔を埋めて、このまま寝てしまおうかな、なんてそんな事を思っていたその時、


――――ブブブブブ、


いきなりあたしの携帯が、静かに鳴り響いた。

「………」

誰だろうなんて思いながら携帯を手に取り、恐る恐る携帯の画面に目を通すと、


「………うわ。」

最近一方的に距離を置いてしまっているあの矢沢君の名前が、携帯の画面に表示されてあった。

「ど、どうしよう、」

このまま着信に出ようか出まいか考え込みながらも、どうせあの矢沢君の事だから此処で電話に出なくてもまた折り返し掛け直して来るに違いないと推測し、あたしは渋々いつまでも鳴り響く携帯の着信ボタンをピっと押した。


「……も、もしもし…、」

「…出るのが遅ぇんだよ」

「ご、ごめん。ちょっと寝てた」

「ふーん、そうか」

ありきたりな嘘を付いて矢沢君を誤魔化すと、そこから何故かシーンとした沈黙が続く。何で電話して来たんだろうなんて思いつつ矢沢君の言葉を待っていると、


「お前、何で今日先に帰った」


如何にも返し辛い質問が、あたしの電話越しからそっと聞こえて来た。