矢沢君はその後、あたしに「離れるなよ」とだけ告げると、あたしの手を不意にグイッと引っ張って、そのままゲームセンターの中へと入って行った。
ゲームセンターの中に入ると、当然のようにうるさい雑音があたしの耳に響く。バっと耳を塞ぎたくなるのを我慢して、あたしの腕を引っ張る矢沢君に恐る恐る問いかけた。
「………矢沢君のお友達って、どんな人なの?」
「見りゃ分かる」
「……そ、そう」
「ああ」
極度に嫌だなんて思っていると、隣の矢沢君が不意に奥まで通る声で「蒼稀」と誰かの名前を呼んだ。
すると、名前を呼ばれた「蒼稀」とか言う男の子が、こっちにスッと振り返る。
「お!シン!」
あっちも矢沢君の存在に気付いたらしく、蒼稀とか言う男の子はあたしと矢沢君の方に手を振って、こっちへ向かって走って来た。
「遅かったなあ。あ、そっか。真面目に始業式行ってたんだっけー?」
「…からかうなよ?俺はコイツに用があって始業式参加しただけだ」
「………え、」
あたしがそれに思わず驚いたような声を漏らすと、矢沢君は一瞬だけこっちに視線を向けた。
「あー、その子?お前が惚れたって言う…」
「……てめぇ、ぶん殴るぞ」
「えぇ。だってさあ」
蒼稀とかいう男の子は両腕を後ろに回しながら「ははは」と可愛らしく笑った。

