HRが終わり、やっと授業が始まる。

私は、八雲君にもらったアメをとりあえずふでばこにしまって、授業の用意を始めることにした。

教室の前に貼ってある時間割を確認する。


1時間目は・・・・国語か。


竜崎は頭いいから授業はヤバそうだろうけど、

私の成績はちょっとお見せできないものだけど、

まあ、まだ何とかなりそうな科目だな。


鞄からノートと教科書を取りだした。


・・・そういや、竜崎は今どの辺をやってるのだろうか。


教科書を手に八雲君を振り返ろうとした、そのとき。


「・・・あ、八雲く、わっ!?」


突然首に何かが巻きついて声を出してしまった。


な、なに!?


何が起きたか分からず、体を固くする。


「あれ、そんなに驚いた?」


耳の近くで声がしてふと左を見ると、凄く近くで男子生徒と目があった。


え、近いな。これってどういう・・・・


その一瞬で、状況を理解する。


「ひゃあっ!!!」


私はあわてて、彼から離れようと身を捩った。

首に巻きついてきたのは彼の腕で、私は後ろから抱き締められていたらしい。


なんだこれ、女子でもあんまりしないぞこんなの


男子校ってこれが普通なの!?そんなわけないか。


軽いパニック状態でそんなことが頭を回っていると、抱きついている彼は私の動揺なんて気にせず、ふーんと言いながら私の顔をじっと見てきた。


「なんだ。君ってあんまり可愛くないね」


「・・・へ?」


何を言われるかと思ったら、突然の悪口。

唐突過ぎて何も言えずにぽかんとしてしまった。


「君とだったら、絶対僕の方が可愛い!」


彼は私から離れると、くるりと軽い身のこなしで私の机の前に立った。

小柄で髪は短いけど、なんとなく女の子にも見えるような。そんなかんじの人だ。


「うーんでも、メイクしたら変わりそうかも」


「は、はあ・・・」


彼はじろじろと私を見て、にっこりと笑った。


可愛いけど、あれ、私さっきこの人に馬鹿にされなかったか?

自分の方が可愛いって?なんだそれ


「僕は千秋真。あみちゃんだっけ?君、今日から僕の練習台ね」


「はあ・・・・は!?」


思わず返事しそうになって、慌てて驚く。

練習台!?なんだそりゃ!?


「だからー。僕のメイクの練習台。ねえ、良いよね?」


「ええ!?」


メイクの練習台?私が?

ていうか練習台って、なんぞや


意味が解らない。


「え、どういうこと?それ」


「じゃあさー。僕のことどう思う?可愛いでしょ?」


そう言って、彼は膝をついて座り、机に頬杖をつく。

それは女の私から見ても可愛いポーズで。

いやいや、小首をかしげないでくれ。女子か。


何も言わなかったけど勝手に理解したのか、自信があるのか・・・

彼は得意げに笑った。


「僕ね。ミス竜崎なんだよ」


「はあ・・・」


ミス竜崎って、あの、学校で一番美人を決めるっていうあれかな?

そっか。ミス竜崎なんだ。

確かに可愛いもんね。納得。


・・・・・あれ?竜崎って男子校じゃなかったっけ?


「んん?ミス竜崎?この学校そんなの決めるの!?」


「そうだよ。毎年文化祭にね」


彼はこれまた得意げに笑った。

男子校でミス決めるって・・・それなんか得あるのかな

男子校ってわけわかんないな。


「だからさ、僕今年もミス竜崎になりたいんだ」


「へえそうなんだ。うん。・・・なれそうだね、可愛いし」


戸惑いすぎてなんか適当な返事になってしまったみたいで、彼はちょっとムッとして机に乗り出してきた。


「駄目だよ!もっともっと可愛くならなきゃ!!」


「おおう?ごめん・・・?」


あれ、なんで私謝ってるんだ?

なんかよく解んなくなってきた。


「そういうわけだから、あみちゃん。僕に協力してね!メイクの練習させて?ね?お願い」


そう言って、両手を合わせてきた。

可愛くお願いしてるけど・・・

あれ、目が笑ってな・・・

え、恐い!

いいから納得しろよ、という目だよあれ。女子がよくやるやつだよ。恐っ!


「は、はい・・・」


「ほんと?ありがとー!!」


引きつりながら、思わず敬語で返事をしてしまった。

これは断れないやつだ。経験的に。

怖い怖い女子怖い

あれ?女子じゃないけど。でも怖い。


怯えてる私なんて目もくれず、彼は嬉しそうに抱きついてきた。


「じゃあ、あみちゃんは今日から友達だね。僕のことは、千秋って呼んで。みんなそう呼ぶから」


「う、うん」


千秋は私から離れると、手を握ってきて。

今度は普通に笑った。


本当に女の子にしか見えないくらい可愛い。

確かに私なんて足元にも及ばない気がするけど・・・

でもなあ・・・?

千秋は何事もなかったかのように嬉々として、おしゃべりを始める。

・・・これまた大変そうな人に目をつけられたものだ

千秋に分からないように小さくため息を吐く。

授業についていけるかよりも不安なことができてしまった。