そしてコースケの返事も待たずに、あたしはその場を離れた。
逃げた。これ以上そこには居られなかった。だってこれ以上居たらあたし、あたしきっとやってしまう。
コースケに、迷惑をかけてしまう。
「…これで良かったんだ」
階段を駆け上がりながら、呟いた。
「これで良かったんだっ、これで…これで!」
息があがる。心臓が酸素を巡らそうと必死に動く。巡る血液が身体中を熱くする。
「こ、これで良かったんだ進藤バカやろーっ‼︎ 」
「誰がバカだよ、誰が」
ーー慌てて飛び込んだのはあたしの教室。
それはしてもいない忘れ物を取りに来た教室で、本当は野球部をこっそり覗くために戻って来た教室。
そこにあったのは…一人の、人影。
「…なんであんたが居るの」
バクバクする心臓と、上がる息を抑えた声は震えていた。でももしかしたら、震えるくらい驚いたのかもしれないのも、また事実。
「…なんでだろう。何かそんな気分だった」
なんて、あまりにもしれっとした表情で答える奴は、進藤さん。
進藤、恋愛マスターだった。



