話している相手が居るのは曲がった向こう側だ。その子の隣まで行かなきゃあたしには誰がいるのか確認は出来ない。でも…なんか、すぐにピンと来た気がする。向こう側に居るのが誰か分かっちゃった気がする。てか、これケンカじゃない……告白してんだ!
「でもっ、可能性があるなら頑張りたくて…っ」
「…うん、ごめんね。その気持ちも凄く分かるんだ。俺も片思いの気持ちはよく分かるから…」
やけに穏やかで、やけに優しげな声色。そして本当に共感しているのだと、その辛さが伝わってくるような弱さを含む語り口調。…まだ優しい、これはなんだか身に覚えのある奴のペースだ。
でも…だとするとあたしは、急に不安になってきた。だってこれってきっと危険な状態だ。奴がいつ本性を現すのか分かんないし、もしかしたらその子を傷つけるかもしれないし…
…うん。やっぱり見過ごす訳にはいかない!
そんな事になったらあたしが止めるしかない!
と、最後にはしっかり心で決意して、いつでも飛び出せるように再度身構えて会話に耳をやる事にする。
「…もしかして、他に好きな人が居るの…?」
でも一方で、疑いの欠片も持ち合わせないその子。その子は純粋にハッとしたような様子で向こう側の奴にそれを尋ねていて…その状況に、ヤバイ、ヤバイかもしれない…!と、あたしの危機察知能力がガンガン警鐘を鳴らした。
だってアイツの事だ。おまえに関係あんの?とか、教える必要ある?とか、それくらいの事は簡単に言うぞ…!そんなの、告白した子に対してなんて酷い仕打ちだ!
想像の中での次の言葉に戦慄したあたしは、もうここまでかと、このタイミングかと、ついに飛び出そうかと悩み始めたーーその時だった。
「…ごめんね」
それは確かに奴から。奴からふわりと、言葉が返ってきた。
「…俺なんかより、もっと君を見てくれる人を探した方が良いと思う。俺には今こうやって、君の気持ちを分かってあげられる事しか出来ないから」
…そしてそれは正に、どこの教科書に載ってるんですか?なんて聞いてみたいぐらいに、お手本中のお手本、模範解答のような素晴らしい答えだった。



