優しくないっ、優しさを感じない!



…なんだ、今日は行けなくなっちゃったのか。



「じゃあ、」

「ちょっと待って」


ちょうど到着した電車。それに乗るために歩き出そうとした進藤君の腕を、あたしはグッと掴んだ。


「ちょっと待って!もう少し付き合って!」


…あたしは、なんだかドン底にいる気分だった。

よく考えれば大した事では無いんだよ、そんな事は分かってる。ただ用が出来て一緒に帰れなくなっただけで、ただ待ってたけど一緒にドーナッツを食べに行けなくなっただけで、ただレナちゃんに寝癖直してもらって応援して貰った意味が無くなっただけで…

…どうしよう。


浮かれ上がった分だけ、落差が大きい。


このまま帰ったらあたし…なんか泣きそう。なんて思ったら、良い人そうな進藤君の腕を掴んでいた。もう少し話を聞いて欲しくて引き止めていた。あと少しだけ付き合って欲しくて、優しくて良い人で素晴らしい進藤君だからこそ、きっと話を聞いてくれると思って…


目の前でドアが閉まり、電車がゆっくりと走り始める。


それがすっかり見えない所まで走り去ってしまって、二人で駅に取り残されたーー…その時だった。


「…困るんだけど」