え…あたし?


進藤の口から出てきた自分の名前に、心がピクリと反応したのが分かった。…正直、それが喜びを表しているという事も。


でも…あたしに会いに来たって?


ジッと目は、合わさったまま。進藤から真っ直ぐ向けられるこの視線は、一体何を表しているのだろう。

あたしに今更何の用が……あぁ、そっか。そうだった。


あたし、この人に嫌いだって言ったんだった、廊下で。しかもみんなの前で。

だとしたらその文句を言いに来たに違いない。それ以外に理由なんて思い浮かば無い。


「 …廊下での事なら謝るよ、ごめん」


張り詰めた空気の中、あたしは進藤の言葉も待たずに口を開いた。そこに“進藤から言われたく無かったから”そんな気持ちが無かったといえば嘘になる。


「だけど本心だよ。あれは本当に思った事だし、あんたに何言われたって何思われたって訂正する気なんて無いからさ」


だからあたしはついこんな口調になってしまう。つい強気な責め口調になってしまい、進藤の事なんてどうでも良い、どう思われてたって良い、そんな態度を装ってしまう。


「だから…もう良いでしょ?その話は。そしたらもうあたしと話す事なんて無いでしょ?良いよ、もう良いじゃん」


本当は反射的に嬉しいと感じてしまうくらいに、進藤があたしの名前を言ってくれたのも、会いに来てくれたのも嬉しかった。でもそれがさっきの文句を言うためのものならーーあたしの想いを否定するためのものをなら、このまま無い方が良い。

色々何もバレないまま、何も無いまま終わりの方が良い。