「…何泣かしてんの、中村」


そして続けて聞こえてきたその声は聞き覚えのある、馴染みのある声なはずなのに、今日のこの瞬間初めて聞いた声色で。

それにあたしはいつもの冷たさの中に隠しきれない怒りが露わになってるような、そんな風に何故か感じた。冷たい、冷たく鋭い怒りが、突き刺さる。突き刺さってくる。


「…泣かしてる?俺が?」

「それ以外にある?この状況で」

「あり得るから言ってんだろ、今この状況で。で?なんで今更ここに来たんだよ、進藤」


それに怖気ずくでも無く、宥めるでも無く、立ち上がったコースケは教室のドアの方に立つ声の主ーー進藤の方へとそのまま歩みを進め始める。


まさかのそんな展開にあたしはピタリと涙の止まった目を丸くして、その状況に動揺する事しか出来なかった。一触即発、まさかのそんな言葉が頭に浮かぶ。いや、でもコースケに限って…てゆーかそんな理由も無いし、でもなんで進藤がここに…


「神崎に会いに来た」


ーー凛とした声で、それが告げられる。

進藤は、ハッキリそう告げた。コースケではなく、あたしの方へと視線を寄越して。