あたしは思い切って声をかける。すると沢山の視線がこっちに向けられた。反射的に向けられたであろうそれだけど、あたしにはビシビシと突き刺さるように感じて少し気持ちが負けそうになる。…でも、その中の最後。その一つ。
「…何?」
ゆっくりと、奴のそれもこっちに向けられた。奴の目とあたしの目が合った。
なんだなんだと、騒めく周囲の状況は感じ取っている。その中にコースケがいる事も。でもまずはちゃんと進藤が返事をしてくれた、そこにあたしは安堵した。そして向けられた奴の表情が冷たいものではなく、最近ではお馴染みになってきた穏やかな微笑みを浮かべている事にも、だ。だからあたしはまだ負けないで進む事が出来た。
「聞きたい事…てゆーか、確認したい事があって」
口に出した、その言葉。毅然とした態度を崩さないようにあたしは細心の注意を払う。少しでも動揺してるってバレたら負けると思った。きっとそこからあたしの中の堰き止めてるものが溢れ出して大惨事になってしまう。
「うん、何?」
…でも、きっと奴には全部バレている、そんな気がして仕方ない。首を傾げて気の良い態度で尋ねてくる奴の胡散臭さったら無い。朝はあんな顔で人の事見ておいて、他の人が居たらこれだ。まるで何も無いかのように。何も変わらないかの様に。あたしは他の人と何も変わらないかのように。
……他の人と、変わらないかのように?
あれ?他の人と変わらないのが…あたしは嫌だったんだっけ?



