うっかり、教室に戻るのを忘れてそのまま帰路に着いていた。というかもう、今となれば頭の中が必死過ぎてレナちゃんとの会話もあんまり覚えてないほどだ。
…でもさ、そんなのを進藤にバレるのはシャクじゃん。だからあたしは至って平然を装って、「べ、別にそんな事ないけどさ」なんて、少し噛みながらも答えてみたけど…その噛んじゃった動揺も、始めに見せたギクリとした反応も、進藤は見逃さなかったんだろう。
「ふーん?」
なんて、奴はなんだか意味有りげに相槌を打つと、ニヤリ顔を意地悪く深めた。これは完全にバレてる。目ざとい。本当にコイツは目ざといし、そうゆーのにすごく敏感だ。
…悔しい!
「…言っとくけどね、確かにあたしは忘れたけど、でもあんたの事で頭一杯になってた訳じゃないんだからね!」
「…へぇ?じゃあなんで?」
「な、なんでって…そりゃあ…そう、忘れようとして…っ、そう!忘れようと必死になってただけ!無い事にしようとしてただけ!」
「……無い事に?」
ーーその瞬間、グンと進藤の声のトーンが下がる。さっきまでの意地悪な笑みがその顔からサッと消える。
「無い事にって…何を?」
重い視線があたしに向けられて、あたしの口はその視線で閉ざされた。開かない。蓋をされる。それはあたしを責めるような視線で、あたしが言わんとしてる事を理解した上で向けられるものだった。だから余計に、だからこそあたしは重く感じる。



