だけど、寝ちゃったことは謝っとかないとな――…。


「…寝ちゃってごめん。」

「あ?いーよ別に。」


薫が何も気にしてなさそうにそう言うので、由佳は少し安心した。


「あと、はい。これ。」


そう言って由佳は、昨日非常階段に忘れてあった腕時計を薫に手渡した。

「お、さんきゅ。」


薫はそう言って腕時計を由佳の手から受け取ると、それを左腕につけた。

何ということはない時計も、薫がつけるとお洒落に見える。
彼は何を身に着けても様になるのだ。


「お前が昨日帰りにこれを渡してくれなかったせいで、今日は時間がよく分かんなかったわー。」

「はぁ?自分が忘れていくのが悪いんでしょ。てか携帯に時計ついてるじゃん。」

「あ、そういう言い方するんだ?俺はお前の命の恩人だろ?」

「あーはいはい、分かりました。どうもありがとうございましたー。」


薫は相変わらず意地悪で嫌な奴だ。

だけどこうして歩いている間も何度も由佳の足を気遣って心配したり、車道側に由佳を歩かせないようにしてくれる。

そんなところを見ると、意地悪なのか優しいのかよく分からない。


だけど本当はきっと優しい奴なんだろうな、と由佳は何となく思った。