夕日を眺めていた薫が不思議そうに由佳の顔を見た。
改めて近くで見る顔に、由佳は思わずドキッとした。
「…今日は、ありがとう。お礼はまた今度、何か渡すから…。」
流石に借りを作ったままでいるのは、由佳のプライドが許さない。
薫は暫くきょとんとした顔で由佳の顔を見ていたが、少しして何か閃いたようにニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
「何も要らねぇよ。その代わり、俺が今から言う要望を聞いてくれる?」
薫のその言葉に由佳は少し戸惑ったが、拒否をするのも何だかプライドが許さなかったので黙ってこくりと頷いた。
「これからは秘密の友達じゃなくて、ちゃんとした友達になろうぜ。」
「どういうこと…?」
由佳はよく意味が理解できずに尋ねた。
すると薫は答える。
「俺はもう、越えてはいけない一線を越えたわけだ。つまり、面倒事に首を突っ込んでしまった。覆水盆に返らずだ。俺はもう遠慮はしない。」
由佳は相変わらず薫の言っていることがよく分からず、聞き返そうとしたが、薫が「さぁ、日が暮れないうちに行くか。」と由佳を背負いあげたので完全に聞くタイミングを逃してしまった。
それから少しして、由佳と薫は無事に生徒と先生たちが待つ山の頂上の宿泊施設に着いた。
その後、由佳と薫が先生からこっぴどく叱られ、由佳が学年中の女子から反感を買ったのは言うまでもない。