「薫、遅いわね。」
そわそわしながら怒ったようにそう言う奈津子だが、心持ちかその表情は緩んでいる。
「今日、可愛いね。」
由佳がそう言うと、奈津子は「うるさいわね!」と顔を逸らした。
大好きな薫が来るのだ、奈津子に気合いが入るのも無理はない。
17時ちょっと過ぎ、薫が待ち合わせ場所に姿を見せた。
なんという事はなく歩いて来る薫だが、彼には無数の女性からの視線が集まっている。
「ねぇねぇ、あの人すごくかっこよくない?」
近くの女の人が、薫を見てそう言うのが聞こえた。
それを聞いてか聞かずしてか、奈津子が薫に向かって叫ぶ。
「薫!遅い!4分遅刻よ!」
薫は右手を上にあげると、急ぐ様子もなくこちらに歩いて来た。

