だけど、自分の前で、自分のことを思って涙してくれている健気な華代を見ると、どうしても彼女を裏切ってはいけない、という思いに駆り立てられた。
「あのさ、華代…」
「由佳ちゃん!もう話さなくていいよ?由佳ちゃんも、話すのつらいでしょ?」
話そうとする由佳を遮って、華代は心配そうな顔をして由佳の顔を覗き込んだ。
「え…、あぁ、うん。ありがとう。」
由佳はどうしても一歩が踏み出せなかった。
目の前で涙で目を潤ませている華代は、これ以上傷付ければ壊れてしまいそうな気がして、今は言うべき時ではないと思った。
―― 木村が知ったら、どう思うだろうな。
―― 俺が止めなきゃ、キスしてただろ?
薫のあの時の言葉が一瞬頭によぎったが、「何もやましいことはない。」と自分に言い聞かせて、蓋をした。

