「お取り込み中わりーけど。」
恭平の唇が由佳の唇に触れそうになった時、教室の入り口の方から聞き慣れた声が聞こえた。
恭平はチッと舌打ちをして、声の主のほうを見る。
「何?」
「木村がお前のこと探してたぞ。」
「木村?あぁ、あの子ね。」
「だから離れろ。」
「あ?」
「そいつから離れろよ。泣いてるだろ。」
薫の声はいつもよりずっと低く、敵を目の前にして唸る獅子のようだった。
「ごめんね、由佳。びっくりさせちゃったね。ほんの冗談だよ。」
恭平は笑いながらそう言って、涙を流す由佳の頭を優しく撫でた。
「続きはまた今度。」
ニヤリとそう言い残して、恭平は教室を去っていく。
去り際、恭平は薫に呟いた。
「君はずるい男だな。」
薫は黙ったまま恭平を睨み付けていた。

