「小野寺くん、じゃあ私、行ってくるね!」
人混みに飲まれながらそう言う華代の声が、薫にはとても遠くで聞こえた気がした。
いつかの由佳の声が、薫の耳に響く。
―――― 恭ちゃん……
―――― 昔近所に住んでた、1つ年上の幼馴染み。
嫌な予感がした。
まさかな、と薫は思った。
だけど先程の華代の話が引っ掛かる。
話したこともない女に、興味など沸くだろうか?
ましてやあんな地味な奴だ。
特別見た目が可愛いわけでもないのに。
いや、でも1つ歳上の恭平という名前の男ぐらい、探せばいくらでも居るだろう。
もしかしたら恭平じゃなくて、恭助とか恭太郎とかかもしれない。
そんなことを考えていた薫に、見知らぬ女子が声をかける。
「あの…小野寺くん?」
「え?あぁ…」
薫は今告白タイムの真っ最中だということをすっかり忘れていた。

