「バカ言ってんじゃねぇよ。ほら、保健室行くぞ。」
今まで黙っていた薫が、口を開いた。
さっきまでの冷たく鋭い瞳とは打って変わって、いつもと変わらない薫だった。
「でも、先生になんて説明するの?転びました、は言い訳にしてはちょっと苦しすぎるでしょ。」
「ゴタゴタうっせぇなぁ。そこは俺が上手いことどうにかしてやるから。」
そう言って薫は、非常階段から去って行こうとする。
「じゃあ木村、そいつのこと連れてきて。俺、先に保健室行って説明してっから。」
「あ、はい…っ。」
そしてその場を後にしようとした薫が何かを思い出したように立ち止まり、振り返って言った。
「木村、お前のこと臆病だとか言って悪かったな。撤回する。」
薫はそう言うと、先に保健室へと向かって行った。
華代はとても嬉しそうな顔をして、涙を制服の袖で拭った。
「さぁ、笠原さん!私たちも行きましょっ。」
そう言って華代は由佳に向かって手を差し伸べた。
由佳は少し躊躇ったが、差しのべられた手を取った。

