……………
「すみません、研究が長引いちゃって。」
「いえ、本読んでたんでちょうどよかったですよ!」
すっかり日の落ちた街角のカフェで、あたしは東さんと落合った。
「本当に、読書が好きなんですね。」
「はい…。暗い、ですよね。」
「そんな事言ったら、考古学なんてもっと暗いですよ!」
おちゃらけた東さんに思わず笑いがこぼれる。
彼の優しさが、体に浸透してゆく。
そして、改めて思った。
…東さんが好き。
そんな淡い恋心がくすぐったくって、慌てて彼を追い掛けると
車道の脇に停めてあった東さんの車に一緒に乗り込んだ。
「すぐそこなので。」
「はい、わかりました。」
あたしの言葉を合図に、エンジンを掛けた東さんはゆっくりと車を走らせ始めた。
図書館以外で会うのは初めての事で、心臓が壊れたように暴れ回る。
そんな鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思いながら、運転する東さんを盗み見る。
胸が、きゅーっと縮まったような甘い痛みがあたしを包んだ。

