君と歩く未知

 「弥生…大丈夫よ、お母さんは弥生を恨んでないのよ」
お母さんがアタシの背中を優しく撫でながら言った。
アタシは呼吸を整えながらゆっくり話した。
「でもね…お母さん、アタシ、さっき思ったの…」
お母さんは優しいぬくもりを含んだ笑顔で首をかしげた。
「アタシにとって、カズくんは、大切な人だよ…。それと同じように、お母さんにとって…お父さんは大切な人だよね…その、大切な人をアタシは、お母さんから取り上げてしまったって…。アタシ…今までお父さんには、たくさん謝ってきたの…、でもお母さんには全然、謝ってなかったよね…。お母さん、こんな娘だけど、許してくれる?」
アタシの目からまた涙が溢れてきた。
お母さんはアタシの涙を拭いながら諭すように言った。
「許すも何も、それは違うのよ。お父さんが死んでしまったのは、弥生のせいじゃない。お父さんは、お母さんを殺してしまったと思い込んで…その責任として自殺という方法を選んだのよ。あれはただの夫婦喧嘩だもの、弥生を巻き込んでしまったのはお母さんたち。…ごめんね、弥生。お父さんとお母さんがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったよね」
そう言ったお母さんの目からは大きな涙が溢れていた。
「ごめんね、弥生。つらかったよね、苦しかったよね」
そう言うお母さんにアタシはニッコリ笑って言った。
「ううん。アタシこそごめんなさい。…だめだよね、前向きに生きなくちゃ、お父さんが悲しんじゃうよね…」
お母さんは強く縦に頷いた。
アタシはお母さんの涙をそっと拭った。
お互いの涙を拭い合ってアタシたちは、絆を強く結び直した。
「さあ!洗濯物たたまなくっちゃ!」
お母さんは意気込んでその場に座り直した。
「アタシも手伝う!」
アタシが洗濯物に手を出すとお母さんは手を叩いた。
「ダメよ!ちゃんと寝てなさい!」
「もう大丈夫だよっ!ねぇ、お願い。一緒にたたませてよ」
お母さんは何も言わずにニッコリ笑った。
お父さんが死んでしまってから、こんな素敵な笑顔をするお母さんは初めて見た。
 今度こそ大丈夫。
お母さんとアタシ…ちゃんと手を取り合って生きていこうね。