君と歩く未知

 アタシはそうやって思いを巡らせていると涙が溢れてきてしまった。
最近、ほとんど泣くことはなくなっていたのに…
アタシが一生懸命涙を拭っているとお母さんに気が付かれた。
「どうしたの、弥生?」
アタシは首を振った。
「なんでもないよ」って言いたかったけど、涙でその言葉は奪われてしまった。
「泣いてるの?」
お母さんはアタシに問いつづける。
もうどうしていいかわからない。
アタシはお母さんに頭を下げた。
「…おかあさん、ごめんなさい…。おかあさんは、ずっと…おとうさんのこと、あいしてたのに…あたしが、あんなひどいことばを、おとうさんに…」
そこまで言うとお母さんはアタシの言葉をさえぎった。
「やめなさい、弥生」
さっきもアタシの言葉をさえぎったお母さんだけど、さっきと今ではずいぶん口調が違った。
お母さんに止められてもアタシは話すのをやめなかった。
「…おとうさんにいってしまったから…はぁ、はぁ…だから…おとうさんは…しんだの…おかあさんから・……おとうさんを、うばったのは…アタシ……はぁ、はぁ」
アタシの呼吸は次第に乱れていった。
胸が痛くて、苦しくて、息ができなくて、アタシは死んでしまうかと思った。
お母さんがアタシの体を抱き上げてビニール袋を口に当ててくれた。
あぁ、過呼吸か。
過呼吸なんてずいぶん久しぶりだな…
アタシがぼんやりとした意識の中でそんなことを考えていると、やっと息ができた。
…お母さんが、アタシを助けてくれたんだ。
アタシにも、もしかしたらあの日のお父さんを追い詰めるのではなく、助けることができたかも知れない…。