君と歩く未知

 この間と同じようにアタシはお母さんに学校まで送ってもらった。
だから、今日もいつもより一時間も早い。
でも今日は美術室には行かないよ。
あそこにはカズくんはいないってわかったから…
カズくんの抜け殻しか残っていないってわかったから…
思い出に浸って、道草をしているヒマなんてアタシにはない。
アタシは朝の誰もいない下駄箱で、ある人を待つことにした。
 三十分ほど待つと、だんだん生徒が登校し始めた。
男子生徒に少し怯えながら捜していると、アタシが待っている人が人ごみの中に見えた。
アタシはその人を呼び止めようとしたけど、勇気がでない。
でも、頑張らなきゃ…!
「竜平くーん!」
アタシが待っていたのは、竜平くん。
カズくんを待とうかとも思ったけど、カズくんとの話は朝のちょっとの時間じゃ足りない。
だから、竜平くんに頼まなくちゃならないことがあるの…
竜平くんは振り返るとアタシにニッコリ笑ってくれて、アタシの方まで駆けて来てくれた。
竜平くんが近付くと、やっぱり体が震え始める。
「あ、大丈夫だよ。ここから先には行かないから」
竜平くんはアタシとの距離を結構空けてくれた。
そっか…アタシが男が怖いってこと、竜平くんは知ってるから…
嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。
「んで、何?何か用?」
竜平くんに聞かれて、アタシは言った。
「えっとね、今日は竜平くんにお願いがあるの…」
竜平くんはアタシを安心させるような温かい笑顔で言った。
「珍しいね。何?何でも言うこと聞いてあげる」
アタシはそんな風に言う竜平くんに少し笑って、ゆっくり言った。
「あの…えっと…カズくんにね、『今日の放課後に美術室で弥生が待っています』って伝えてくれないかな、カズくん、メール打っても返信くれないから、メールで伝えるのは、伝わってるかどうかわかんなくて、なんだか不安で…」
アタシはドキドキしながら竜平くんからの答えを待った。
こんな面倒な役、頼んじゃってごめんね。
でも、他に何も方法が思いつかないかったの。