声の主は、彼だった。
「………何でしょうか?」
「この資料、20部ほどコピーしておいてくれない?」
差し出されたのは薄い紙の束。
それを持つ彼の手や、香りが以前のことを思い出させる。
「?……中瀬さん?」
「あ、………すみません。わかりました。20部、ですね」
「よろしくね」
意味深な笑みを浮かべて、彼はデスクに戻っていった。
そういう風にできるくらいには、吹っ切れたということなのかもしれない。
それを私に見せつけに来ただけかも。
「さいってー……、」
ずっと流さずにいられたはずの涙が、一粒だけ、頬を伝って落ちた。

