大学三年の初夏、桜の葉が生む涼しい影の下。

田舎の、人が少ない駅のホームで、彼を見た。

私は何かを感じた。


「…あ、あのっ」

「…ん?」


長身の黒髪で少し目が青い、不思議な人。

彼はただ呆然と桜の木を見ていた。

そんな彼に私は何も考えず、声をかけていた。


「あの、えっと…」

「?」

「…葵?」

「桜葉…」


小さく笑う彼に心臓が跳び跳ねた。

高校のとき、毎日見ていた、あの笑顔。

大学にはいってなかなか見れなくなってしまった彼。