私は濡れた瞼を閉じた。

すると、大きな手のひらが私の目を覆った。

私は今、抱き締められている?


「今、なにが見えてた?」

「…葵の顔」

「俺、目閉じると毎日桜葉のこと考えちゃうんだよ」


葵の声がすぐ後ろから聞こえる。


「前にさ、蕾のこと忘れたいって言ったけど、結局怖いんだよ。蕾以外の子を好きになったら蕾の記憶が薄れてくんじゃないかって、」


少し間を置いて、葵は涙声で呟いた。


「…ごめんね蕾」


そういって葵は私から離れた。


目を開け、振り向くと、涙を堪える葵が立っていた。


「ごめんね、でも…忘れないから」


桜の木を見て、葵は呟いた。

そのあと、葵は私を見た。