四十半ばの冷泉院、狩衣姿も帝の時より落ち着かれて
心おきなく父源氏のもとを訪ねてこられます。

冷泉院は木履(ぼくり)を脱ぎながら、
「父君、お勤めのところをまたお邪魔します」

源氏は笑みながら声のほうをむき、
「なんのなんの若竹じゃ、ちょうど朝掘りの筍を
土地のものが供養してくれた。この間はほとんど話もできなんだ
夕霧などもおったからのう。今日はゆるりと法華経でもひも解こうかな」

冷泉院は狩衣の裾をまくり上座の上敷きに胡坐をかいて座ります。
「いやいやそのようなむつかしいお話は今日はご勘弁を・・」
「そうか、ではきょうは?」
「母上のことを」
「ふじつぼ、・・か」

気まずい雰囲気がしばし流れます。冷泉院は相当の覚悟をしてきているようです。
鋭いまなざしで源氏を見つめていますが源氏にはみえません。
源氏は若竹を口にすると黙して空を見上げます。

「いつわしが父とわかった?」
「母上の四十九日に比叡の僧から聞きました」
「・・・・・」
「厳しく口止めされていたそうです」
「なるほど。おどろいたろう?」
「ええおどろきました。ほんとにおどろきました。
今度会ったらどうしようかと夜も寝られず・・」
「わしが三十二宮が三十七の時だから十四の歳のころかな君は?」
「そうです十四の時です」

源氏は手さぐで冷泉院に酒を注ぎ自らも注いでぐいと一飲みします。
今日ゆっくりとすべてを我が息子に話そうと意を決したようです。