「昔のよしみで今も変わらぬあなた様のご厚意、
誠にありがとうございます。もしよろしければ
直々にお会いして御礼申し上げたく存じます」

薫の君は胸躍らせて何度も何度も繰り返し
中の君からのお手紙を読まれて、

「お手紙拝見いたしました。昔のよしみなどと
水臭いことはおっしゃらずに。詳しいことは
万事参上いたしました上で。あなかしこ」

と生真面目にお返事なさいました。
さて次の日の夕方、いつもよりは念入りに身づくろい
をされて薫の君は中の君を訪れになりました。

中の君はすぐに御簾の中へお招きになります。
「これはこれは」
その喜びを顔には出さず薫の君は静かに中には入られます。
中の君は一番奥に控えておられます。

「先日は父宮の法要でずいぶんお世話になりました。
心から感謝いたしております」
深々と礼をなさいますが声が小さく聞こえません。

「は?よく聞こえませぬが、もっと前へお出ましを」
薫の君は胸の高まりを抑えきれません。

「何とかして宇治に帰れぬものでしょうか?」
か細い声で中の君は何度もお頼みになります。

「そればかりは私の一存では出来かねます。
匂宮に相談されて許可が出れば段取りは
すべて私がしきらせてはいただきますが」

「ただごく内内に人目につかぬよう。なにも
匂宮のお許しなど大げさなことは・・・」

同じ言葉を薫の君は中の君の耳元でゆっくりと
やさしく囁(ささや)きながら半身はするりと
中の君寄り添い横になられてしまいました。