「ふむ、うまい酒じゃ」
そこに焼きなすが運ばれてきます。
お市の方と目を合わせて微笑む明石の中宮。

添えてある味噌を和えながら中宮は優しくなすをほぐします。
盃を膳に置いて老いたる源氏は大きく口を開けます。

「はい、お上手。大好きなおなすをどうぞ」
「あちち」
「あらごめんあそばせ」
中宮はなすを戻しフーフーと吹いています。

「今度は大丈夫ですよ」
「ふむふむ」
源氏はおいしそうになすを食む。

「おじいさまはなぜ探すなとおっしゃったんでしょうかしら?」
「もぐもぐ、それには深い訳があるんじゃ」
「訳?」
「そうじゃ。わしにはよくわかる」
「今日は詳しく教えてください父上」

源氏は再び大きく口を開けます。
中宮は笑いながら焼きなすを運びます。
お市も惟光も笑っています。

「全ては入道殿の信心のあかしじゃ」
「住吉大明神?」

「そうじゃ、もともと気の荒い一本気のお方じゃった。
京におられてわしの遠戚でもあられる。ところがあの気性
じゃから都人からは疎まれて信心に走った」

「荒い気性を何とかせねばと思われて?」
「そうじゃと思うが、本来の気性などなかなか治るものではない」
「そう思います。お父上様も」
「なにをいう、親をからかうものではない」

「おほほほほ」
笑う中宮いとをかし。
「ところがじゃ、信仰心のあまりの厚さに気性は変わらぬが
その出方が変わった」

「と申しますと?」
これからが本題じゃというように源氏は手元の湯呑をさっと
手にして白湯を飲まれました。まるで目が見えるよう。