もうこらえてくれというように老いたる源氏は
大きくうなづきながら、お市がそっと持ってきた
手拭いで涙を拭いています。

「親父殿、ほんとのことを語っていただいて誠にありがとう
ございました。私は心から父上に感謝しております」
「感謝?」
「ええ、柏木は臨終の間際に二つのことを私に頼みました。
一つは父上に不興を買ったからうまくとりなしといてくれ
というものでした」

二人ともやっと普段の顔に戻って話は続きます。
「それはもう叶ったな。二つ目は?」
「それはもう叶っています」
「?」
「落ち葉の君を頼むということでしたから」

二人ははたと顔を見合わせて最後に大きく笑い声をあげました。
それは屈託のない天にも届く大きな笑い声でした。

実は柏木の死後その遺言に忠実に夕霧は落ち葉の君を慰めに
通い続けます。さすがにはじめは全く受け付けられません。
しかしコツコツと誠実にこれが夕霧のいいところです。

ついには出家をと望まれる落ち葉の君を無理やりに連れてきます。
それがもとで雲居の雁は子たちを連れて実家に帰ったりします。
律儀な夕霧は月の半分を雲居の雁あと半分を落ち葉の君という
条件でみんな幸せに暮らしています。