「宮と同じに出家した元の小侍従がすべてを語りました。あの
恋文が源氏殿に見つかりさえしなければと泣き崩れておりました」

老いたる源氏は観念したかのようにか細い声で、
「そうか・・・」
そう言ってうつむいたままじっと目を閉じておられます。

日は少し西に傾いてきました。しんみりとした長い沈黙が流れます。
夕霧も自酌するとすぐに一飲みしじっと沈黙に耐えています。
ついに老いたる源氏の重い口が開きました。

「そういうことだ。・・・恋文を見つけた時にすべてを悟った。がしかし
わしひとりの胸に秘めておけばどうってことはない、桐壷帝のようにと
はじめは思った。懐妊を知るまでは」

夕霧は静かに首を横に振ります。柏木の無念さと源氏の宿世の残酷さに
おののいて思わず涙がほほを伝います。

「懐妊の知らせは地獄の電撃じゃった。過去遠遠劫からのわしの宿世。
どうしても断ち切ることのできぬわしの罪業ここに極まった。
どう計算しても間違いない。柏木の子じゃ。まさに電撃じゃった」

涙にくれる老いたる源氏を哀れとも不憫とも思いながら
夕霧は暖かく父の告白を包みます。

「朱雀院の五十の祝いに」
「病身の柏木を無理やり呼び出して痛烈な皮肉を浴びせた」
「なんと申されたのですか?」
「ううう」
老いたる源氏が涙にくれます。

夕霧が代わりにつぎのようにこたえました。
「わしの権力と神通力でお前を呪い殺してやる!」
「うう、そうじゃ、言葉こそ違え心は魂の怒りそのものじゃった」

「乳母の話では生まれたばかりの若宮をお抱きにもなさらなかった」
「抱けるものかあの時は」

「女三ノ宮はその冷たい仕打ちに出家を決意なさった」
「そうじゃ。わしの知らぬ間に父朱雀院に泣きついて」
「院も辛かったでしょう」

「あの時はみんなが辛かった宿命の嵐にどこもかしこも涙涙、
涙そうそう。あまりの苦しみの極みに涙の笑いがこみあげて
くるほどじゃったよ」

老いたる源氏の顔は涙にぬれてあまりの苦しさにゆがみ
見えぬ眼が空をにらみ横から見ると笑ってるように見えました。