だから、そんな必死な自分が彼にバレたくなくて、いつも可愛くない態度を取ってしまう。


わかってる、自分が不器用なことはとっくに。



今だって、陸上部が練習してる外のフェンスから、たくさんの女の子が声援を送っている。


私だって、こんな遠くからだけじゃなく、近くで工藤くんの走る姿を見てみたい。


でも、できないから、こんな校舎の片隅で、彼に気づかれないように、そっと眺めているのだ。




「ほんとうに付き合ってるんだよね...?工藤くん...」



そんな答えの返ってこない不毛な質問を、ただつぶやく意気地無し―――







そろそろだろう、という時間になって私は放送のマイクの電源をつけた。



―――ピーンポーンパーンポーン


"完全放課の時刻となりました。
活動中の生徒は、すみやかに撤収し、気をつけて帰りましょう。"


―――ピーンポーンパーンポーン




こんなお決まりのセリフ、録音して定時に流れるよう設定もできるのだが、そうしてしまうと彼と一緒に帰る口実がなくなってしまうような気がして。



幸いにも、私以外の4人の放送部員は他の部活にも入っているので、自動的にこの役割は私にまわってくるのだ。



私は置いてあったスクールバッグに手をかけて、工藤くんが待っているであろう玄関へ向かう。




玄関に着くと、暑いのかブレザーは着ていなく、白のワイシャツも2つほどあいている、いつもより色気2倍増しの工藤くんが壁に寄りかかって待っていた。



あぁ、待ち受けにしたい。
今度隙があったら絶対撮ってやろう。




「工藤くん、部活お疲れ様です。」


「おっ、ありがとう。」


少し口角が上がった気もするのだが、それは私に会えたから?それともやっと帰れるから?―――



工藤くんとの帰り道は、とっても静かだ。


休日もよほど会わず、クラスも違うので、この帰り道だけが2人だけの時間なのだが、私も工藤くんもお喋りな方ではないので、無言なことも多い。




でも、私はこの沈黙がそんなに嫌いではない。



工藤くんの半歩ほど後ろを歩いているが、たしかに近くに工藤くんを感じ続けられるから。




それだけで幸せだったりしてる。