任されたのはアンカー。


一直線の100m。


ピストルの音が鳴り、一走者が走り始める。

集中して当時の感覚を思い出す。



そうしているうちに三走者目にバトンが渡る。私のクラスは六番手だ。

しかし三走者目の子が一人抜いて五番手につける。


前四人との距離もわずか....



いける。





バトンを受け取った私は、もうとにかくゴールにむかって走った。

頭は真っ白だった。




だけとゴール直前、私は思った。




やっぱり私、走るのが好き。





――――――





レースも終わり、息も落ち着いた頃、工藤くんが私の側に近づいて来るのが分かった。



「お疲れ様、咲良。」



「工藤くん...」



「惜しかったね。俺はちゃんと写真で判定したほうがいいって言ったんだけど。」


「いや、誰も撮ってないでしょ!」


私は3年生とわずかな差で2位となった。



「咲良があんなに走れると思ってなかった。」



「それ、褒めてる?けなしてる?でも私も思ったより速く走れたかと。」



「調子乗んな。全国なんて行ったらお前なんか予選ビリで敗退だ。」



「これ、体育祭だから」



でもやっぱり少し悔しかった。そんな私の気持ちを察したのか、工藤くんが私の頭に手を乗せて



「俺が、お前の分まで1位取ってくるから。」



クラス違うんだけどな、なんて思ったけど、彼の言いたいこと、優しさが伝わってきたので、何も言わなかった。


そしてボソッと"アップしてくる"と言って姿を消した。