ママ―、ときっと手を振っているであろう(柊二たちに砂都美は見えているが、砂都美に柊二たちは見えていない)

澪の声が少し遠ざかり、代わりに柊二の

今開けるから…!!

と、少し焦った声が耳をくすぐる

思わず漏れる笑声

セキュリティーの解除されたドアをくぐり、エレベーターで押しなれた階を押す

ゆっくりと上昇していくエレベーター

もう一度、大きく息を吸い込んで吐き出す

柊二が明けてくれたドアの先に見えるのは、少し古びた、けれど変わっていないあの頃の我が家だ

「ママ!!」

廊下の先からかけてきた澪を受け止めつつ、まだ驚きから解放されていない柊二を見上げる

「ごめん。来ちゃった」

砂都美の苦笑に、柊二はいや、と首を振ってから優しいほほ笑みを宿す

まるで何も言わなくてもわかっているから、というように