「チーフ」

凛とした竣の声が、小さな個室に響く

「笑わないで下さいよ」

つらいのに、まだ忘れてないのに笑わないでください

そう紡がれた言葉と砂都美を見つめるまっすぐな瞳

「チーフ、まだ忘れてませんよね?あの人のこと。だから俺がどんなに食事に誘ったってかわすんですよね?チーフは、いっつも一人で立っているけど、あの時のチーフは、すごく折れそうでしたよ」

そう告げてくる彼の瞳は、一寸の曇りもなくて

「ねえ、砂都美」

隣の芽衣の瞳も優しいけど、厳しい

「今回は、大林の言うとおりだよ。あの時のあんたすごく辛そうだったもん。何があったか知らないけどさ、つらいなら笑わなくても良いんだよ」

ああ、やっぱり強くはなれないのだろうか

「……のよ」

どれくらい沈黙が流れただろう

下を向いた砂都美の顔は見えないけれど、紡がれた声は

気のせいか震えている

「流産、したのよ」