「ああ、大林君ね。別に彼氏とかじゃないわ。ただの後輩」

強いて言うなら小型犬?

そういいながらふー、とカップに息を吹きかける砂都美に耳に柊二の笑声が届く

「相変わらず辛口だなー。まあ、そこがいいところなんだけど」

そんな彼の笑顔を何ともなしに見つめる砂都美が、思い出すのは掌に乗せた不格好なクッキー

想うのは、二人で仲良くキッチンに並んでいる姿

「ねえ、柊二」

今度口を開いたのは砂都美の方だ

意を決したような響きのある口調に、柊二はまっすぐにその瞳を見つめる

「三年前、ちゃんと言わなかったから言わないといけないことがあるの」

一度言葉を切ってから、そっと深呼吸する

深く、深く息を吸い込んで

出来るだけ言葉が、声が揺らがないように

「私、柊二には幸せになってほしい。勝手なことはわかってるの。でも、やっぱりそう思う」

それに

「澪だって兄弟が欲しいだろうし、母親だって欲しいと思うから」

だから

「だから、私に気兼ねなんてしなくていいからね」