この道を、君と

「ただいま」

誰が答えてくれるわけではないのにドアを開けるとそういってしまうのは、

あのころのくせだろうか

靴箱の上に部屋のカギを置いて、音もなく床を感じる

カチッ、と部屋に短い音が響いた後電気がつく

なんて生活感のない部屋だろう

ぐるりと部屋全体を見渡し自嘲的に口元を上げる

でも、そう思えるようになったのはつい最近だ

自分の私生活に目が行くようになったのは、ホントつい最近

それまでは捨て去った過去を振り向かないように、とらわれないようにすることに必死で

がむしゃらに仕事に打ち込んでいた

そのおかげで最年少女性チーフという肩書まで手に入れたわけだけれど

そんなもの、なくてもよかったのにな

ジャケットを脱ぎながらまた自嘲的な笑みを宿す