2月14日



どこを見てもチョコ、チョコ、チョコ

これでもかと並べられ、積み上げられた小さなかわいらしい箱がいやでも目に入る

桐谷 砂都美(きりたに さとみ)は、

駅の片隅置かれたコンテナからすっと無意識に視線を外した

けれど、外した先にまた別のコンテナがあって、思わずため息が漏れる

出勤前になぜこんな憂鬱にならなければならないのか

黒の光沢を帯びたコートの上にまかれたカシミヤのマフラーを、

何ともなしに口元まで引き上げ、ヒールの音を響かせながら足早に改札を抜ける

外した視線は、自分の過去に目を向けられていない証拠だ