生ビールが運ばれて、乾杯をするとおもむろにきょうさんが話しだす。


「なつ~…何があった?」

「………」


ずっと隠し通せるとは思ってなかった。
だけど、こんなに早く話すとは思ってなかったから。


「…あかりと別れました」


きょうさんはわかってたのか、何も言わずジョッキを持つとぐいっとそれを口に流し込む。


「振られたのか」

「…振りました」

「そうか」

「俺、あかりを裏切りました」

「……そうか」

「………」


きょうさんはわかっていただろう。
きっと、これを彫ったその時から。


赤黒い薔薇のタトゥーを彫った時から。



「まだあかりちゃんの事は好きなのか?」

「…………」



否定しないといけないのに。
言葉にしようとすると、何も出て来ない。


この沈黙が全ての答えなのに。


きょうさんはジョッキを飲み干すと、ダンと音を立てて机に置く。
それから大きな声で笑った。