そうだよ。わかる奴なんか、いなくていいんだ。
俺だけわかってれば。
言わなきゃよかった。
言わなきゃよかったんだ。
キリキリ痛む胸の理由もわからずに俺は無我夢中で走っていた。
……駅前にはもう、しほが到着していた。
「あっ、夏樹」
「はあっ、しほっ、はあ」
「ど、どーしたの、そんな息切らして」
「あっ、会いたくて」
「ええ?!」
「……はあ。はあ、ごめん、いきなり」
「………嬉しい…」
顔を真っ赤にして、俯くしほの姿を見て。
ちくりと俺の胸が痛む。
…さっきとは違う痛み。
しほを利用しようとしてる俺のずるがしこさ。
これは。
木下あかりを裏切る予行練習なんだ。
…俺は痛む心の中でそう、思い込み、良心に蓋をした。


