『貧乏くじだったんじゃない?まぁ一年の辛抱でしょ、頑張りな』




その容貌にはぴったりハマるいちご牛乳というアイテムを手に、流し目でさも興味なさそうに言ってのけた小百合ちゃん。彼女に手伝うというコマンドが毛頭ないことは知っている。



 だからこそ今日も一人、意外と距離がある屋上までの階段をこうしてのぼっているわけだ。




「……ここで足を滑らし真っ逆さまで落ちたそこにイケメンが立っていてお姫様だっこで受け止めるというイベントは来世で発生するかな?」




梅、あなた疲れてるのよ。



どこぞのワンシーンに出てきそうな言葉を脳内で唱えながら、収集のつかない独り言にセルフツッコミを入れる。




 疲れることは嫌いだ。だけど仕事をサボる奴はもっと嫌いだ。




最後の一段を少し息を切らせながら登りきっても、




「それとももう過去に、経験してたりして」




 私の独り言は止まらなかった。




……それがいけなかった。







「意外とベッタベタな妄想するんだね」

「ひぐぇっ!?」




某不思議効果音漫画よろしく、おかしな言葉が私の口から飛び出たのは、一瞬のことだった。




「まず階段の上から落ちてくる人を受け止めるって……女の子って言っても米俵五つ分はあるわけだから……絶対無理だよね。仮に受け止められたとしても倒れ込むの必至だよね」

「えっ…………ええと…………」

「女の子って王子様は何でも出来るって思ってる節がある気がするなぁ。王子様だって一応人間なのに……王子様として生まれたばっかりに、全世界の女子からかけられるプレッシャーと共に生きてるよね」

「………………」





 な ん な ん だ こ い つ は





顔に熱が集まるのを感じた。

恥ずかしい、恥ずかしすぎる。


しかもこの人、つい一昨日くらいに私が起こして道をあけさせたあの人じゃあないか。



っていうかなんでこいつまたここにいるんだよ、なんで起きてるんだよ今日に限って!!!!




口をぱくぱくさせながら呆然としている私に、あろうことにも彼はふわりと笑った。

イケメンが笑うとこう、くしゃっというか……なんか全体的に柔らかい雰囲気になるよね、草食系イケメンにありがちだけど……とにかくこれは酷い。色々と酷いのだ。



「大丈夫、誰にも言わないよ。そういうので楽しむ趣味ないし」

「い、いやあの……なんかすいません…………」



 ニコニコと笑みを崩さない彼だけど、どこかその笑顔には偽物のような、作り物っぽさを感じた。



「この間の人だよね。俺のこと起こした人」

「あ、ああ……その節は大変申し訳なく……」

「礼儀正しい人だなって思ってたんだよ。普通なら文句の一つでもつけるところなのに、お礼まで言って行ったから、ああいう古風な人ってまだいるんだなって思ったんだけどさ」

「……え、っと」

「でも意外と考えてることは現代人みたいだったから」




よくしゃべりおるな小僧!!!

もうやめろ、それ以上私の傷口をえぐるのはやめろ!!!




…………そう言いたかった。けれどそんなことこの場で言えるほど私に勇気はないし、人間として、女子として一番恥ずかしいシーンを目撃されてしまったからこそこの場は穏便に済ませたい。