――――――少女漫画に登場するとしたらモブにすら劣る凡人女子にも、一応男友達はいる。



「おはよう梅子」

「梅子、じゃない。梅、だから……ってこれ何回やらすの。小2から脳みその大きさ変わってないだろアンタ」

「偏差値は全て俺の身長に回ったんだよ」



“自称高身長イケメン”、それがこの瀬戸内廉だ。

自称自称と名乗ってはいるが、女子は背の高い男が好きだ。それにコイツの場合顔も悪くはなく、口車も上手い為、モテる。私にとってみればただの口の美味い手長ザルなのだが、きっとそれは鼻を垂らして野山を駆けずり回っている頃から知っているからこその弊害なんだろう。



「なんか今日も今日とて普通だなお前……なんかこう……浮ついた話はないのかお前に」

「浮ついてる……あ、今日階段降りてたら滑って一瞬宙を浮いたよ。ヒヤッとしたわ」

「ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか?」



だとしたらツッコミづれぇよと言われてしまい、こんなやつに気を遣われるようになった自分にショックを隠せない。



「おはよう瀬戸内、梅」

「なんで今名前呼んだの瀬戸内からだったの小百合ちゃん。おはよう」

「は?特に深い意味はないわよ」

「本当お前なんでそんな俺に厳しいの?俺なんかした?もしかして俺のこと好き?」

「割と本気で殺したくなるからお前にはびっくりさせられるよ」



やれやれ、と言った感じのジェスチャーをしてみせれば、腹立つと言われてアイアンクローをかけられる。

ギブギブギブギブ、と言いつつも、いつも女の子にこんなことしないくせにとイラッとする。



「あっれー?瀬戸内じゃん!なんでなんで?クラス上の階なのに」



そんな時、傍に寄ってきたのはクラスでも可愛いと評判のポニーテールが特徴的な女子だった。



「おはよーミホちゃん。んー?そりゃもちろんミホちゃんのポニーテールが見たくなったからだよ」

「朝から上手いね~!久しぶりに遊ぼうよ!」

「いいよ~?どこ行く?」

「駅前に出来たケーキバイキング知ってる?カップルでいくとやすくなるんだって!でねー、………――――」



腕を組んでさっさと行ってしまった廉達の姿を最大限に眉間にしわを寄せて見送りながら、ふう、と一息つく。朝からだいぶ疲れた。やはりあの男は人のやる気とかそういうのを吸い取る力があるんだと思う。



「あいつに口説き落とせない女っているのかね」

「……んー、小百合ちゃんくらいじゃないの」

「あたしもわかんないよ。綺麗な顔の男嫌いじゃないしね~」

「意外だ……お金かと思ってた」

「あながち間違いじゃないけどね」



その横顔はやっぱり美しく、透き通るような肌が羨ましい。ああでも、小さい頃からなんの特徴もなかった私だけど、近所のおばさんにはいつも『色白いわね~』とは言われていた。


外で遊ぶのが嫌いだったから中で遊んでるうちに病的な白さになっただけだけども。




「席着けー、ホームルームはじめんぞー」



 
 いつもと変わらぬ時間に担任は今日もやってきて、ホームルームが始まる。



今日もはじまる退屈な一日は、私に合う理想の男性像を考えてみることにしよう。




「……っつーことで今日も東雲、実験道具取りに行っといて」

「えっ」




いつの間にやら終わっていたホームルーム。

授業前の少しざわついた時間が教室内には流れていて、私の机にはしゃらんと鍵が置かれていた。



一言だけ残していった担任と、ぽかんと間抜けな表情で固まる私。





……もしかしてこの実験係という仕事、意外と面倒くさかったりするんだろうか。