アニメや漫画の中に出てくる恋愛話の主人公たちは、どうしてこうも美男美女揃いなのだろう。




イケメンと美少女が同じ学校の同じクラス、隣同士の席に座っていたとしたら、そりゃあ泣く子も身を乗り出すレベルの熱く激しいラブストーリーが始まって当然なんだと思う。


これがもし、イケメンの隣にメガネをかけ、髪をお下げに結った肌の手入れもまともにしていないような小太りの女子が座っていたらどうだろう。イケメンは彼女を見向きもせず、机に突っ伏して寝るかぼーっと窓の外を眺め、昼休みになったら隣のクラスの美人な彼女のもとに向かっていくに違いない。



 もちろん、逆も然り。



美少女の隣に幼女向け美少女戦隊物アニメに出てくる、いつも左から三番目あたりに立っているキャラクターのフィギュアをいつもカバンに忍ばせ、基本的に息を荒げて生活している未成年にしてビールっ腹の少年が座っていたとしても、全く同じことが起こるに違いない。



全ては必然。

そうなるべくして成立したのが美男美女のラブストーリーであり、世の女子達はそれを読み、『自分もこういう恋愛がしたい』と日々妄想を膨らませるのである。







「……スレてんなぁ」




頬杖をついて私のことを見つめる彼女は、いわゆる“ラブストーリー”のヒロインに抜擢されてもなんらおかしくない美貌を持ち合わせた少女、白石小百合ちゃんである。

亜麻色の艶やかな髪が、今日も窓から吹き抜ける風にふわりふわりと揺れている彼女は、見た目は清楚な庇護欲そそる系女子であるにも関わらず、中身はそこらのオッサンとなんら変わりないから驚きである。


あ、これがギャップ萌えか。



「いや、これはあくまで私個人の意見だから。それに私も少女漫画は普通に読むし」



そう彼女に返した私はというと、肩につかない程度のところで切り揃えられた髪は真っ黒で、前髪もきっちり……おしゃれ用語を使わせていただけるのなら所謂“ぱっつん”になるんだろうが、どっからどうみても市松人形だろと鏡を見るたびに思ってしまう。


人に厳しくもなければ甘くもなく、かと言って曲がったことを叱咤激励するほどの勇気もなく、電車におばあさんが乗ってくれば席を譲る程度の良心を持ち合わせた、―――――――THE☆凡人。






 それが私、東雲梅(しののめ うめ)だ。







…………お気づきだろうか。そう、名前までなんか古臭くて変な意味でのインパクトが強いのである。




「少女漫画ねぇ……でも現実には起こらないことだからこそ、漫画読んで満足するんでしょうよ。自分に置き換えたりなんなりして」

「そうなんでしょうね。実際私そうですし」

「アンタ少女漫画を批判したいの?それとも推奨したいの?」

「どっちかと言うと推奨」

「…………あ、っそ」



前の席に座って体をこちらに向けている小百合ちゃんは、机に放り出されているおしゃぶり昆布をひとつつまむと、口の中に放り込んだ。


そんな姿も絵になるなあ、昆布がマカロンだったらなあとぼーっと見つめていれば、『でもさあ』と彼女が切り出す。



「アンタだってあわよくばイケメンとの恋、してみたいでしょ。あわよくば。イケメンに告られたら断んの?例えば……B組の茅原とか」



B組の茅原くん。

そこまでキャパのない脳みそをフル稼働させて絞り出した情報は、三浦○馬になんとなく雰囲気とお顔立ちが似ている彼の顔だった。



「ああ!全然付き合うね!まずもってそんなことが起こるわけないけどね。そんな宇宙がひとつできるかできないかくらいの確率に値する出来事起こるわけないけどね」

「アンタ今必死にフラグ立てようとしてるでしょ。起こるわけないって言っておいて本当に起こっちゃうフラグを乱立させてるでしょ」

「気づいたんだったらへし折らないでよ……」

「大丈夫、あるわけないからそんなこと……ってこれもフラグになりかねんな……あるかもね、来、来世くらいに」

「小百合ちゃんのそのサラッと暴言吐いていくとこ、嫌いじゃないよ」



うんうん、と頷きながら私も口の中に昆布を放り込む。

染み出すダシの匂いが口に満ち溢れ、やっぱり私はチョコレートなどの甘いお菓子よりこういう素朴な味が好きだと再確認させられる。