「あかりって朱色の『朱』に『里』って書くのか!?」

まあ、たとえわたしが海野と名乗っていなくても刈沼ならこう聞いてきてたかな。

「あー、うん」

「なあなあ、朱里ちゃんか?」

「え? うん、わたしは朱里だけど?」

分かってるよ。

刈沼が言ってるのはそういう意味じゃないって。

でも認める訳にはいかないでしょ。

「そうじゃなくて!」

うん、だよね。

「うん?」

ごめんね、あなたの言う"朱里ちゃん"にはなれないな。

「あのさ、海先 朱里ちゃんって知ってるか?」

「え、ううん」

本人だけどね。

周りから『海先ってあの海先?』みたいな声が聞こえる。

流石、当主夫妻があんなのでも公爵家。

知名度は抜群だね。

「ほんとか?」

嘘ですー。

「うん」

「そっか、分かった」

およ、次の人のところに行っちゃった。

























よかったー!

バレなかった。

なんとか乗りきれたよね。

これで当分は大丈夫でしょ。

冴えないわたしなんかより華やかな誰かにピン! とくるかもしれないし。

そうでなくても血筋がいいだけあって顔立ちは整ってるからまとわりつ......じゃなくて、惹き寄せられる女の子も多いだろうし。

目立たず地味に過ごしてればまず平気でしょ。


もう一回接触するなんてしたくないから真希が刈沼と話した後にあの子んとこに行こう。

『あ、朱里ちゃんと名前が似てる子だ』なんて記憶を補強する必要もないし。


この眼鏡は手離せないな。

元の顔を見られた瞬間にバレるに決まってるし。

だって会ったことあるもん。