その日もいつも通りに登校したんだ。

メイドさんに起こされて、
ご飯食べて、
魔法やって、
真希と待ち合わせて、
レポートを見せて......

しっかり『いつも通り』だった。



刈沼(かりぬま) 蓮(れん)侯爵令息なんかがわたしのクラスに転入してくるまでは。



別にわたしは彼が嫌いなわけじゃない。

パーティーに行けばよく顔を会わせるし、素直な子で可愛いと思う。

この学園に来たって別に構わない。

それが偶然だと言うなら。


ただ刈沼の目的がいけない。

どこから伝わったのか──多分父からだろうけど──わたしがこの学園に通ってることを知って態々転入してきたんだ。

いや、気持ちは嬉しいんだけど、ね。

でもやめてほしい。

平穏な学園生活が壊れる予感しかしない。

しかも、なんでよりによってこのクラスに来るの。

せめて違うクラスならバレる危険性がガクンと減ったのに。

片思いの人を追って転入してくるとか、子供かって感じ。

あ、まだ子供の年齢だった。


そんなことはどうでもよくて、わたしが海先ってバレたらどうなる?

素直な刈沼はことあるごとに後ろについて回りたがるタイプ。

そんなことになれば地味に目立たずの学園生活は木端微塵だ。

侯爵なんて権力は目立つんだから。


バレないためには......


とにかく眼鏡を死守しよう。

で、しらを切り通そう。

それしかない。



刈沼の席はありがたいことにそこそこ離れてる。

なるべく接点を持たないようにして過ごそう。

これがベストだ。

よしよし、隣の女子と話してる。

そのまま仲良く話していてね。


おっと。

危ない危ない、目が会うところだった。

いきなりこっち向かないでよね。

って、刈沼を観察してる場合じゃないんだ。

もうそろそろ授業が始まっちゃう。


目も会わない人と態々話そうなんて気は起こさないでしょ。


......そう思っていた時期がわたしにもありました。

正直言って刈沼のパワーを舐めてた。

それは認める。

だからってこんな直ぐに接触しなくたっていいじゃない!

「なーなー、名前何ていうんだ?」

しらみ潰しとか、転入早々普通するかしら!?


片っ端からとりあえず話してみよう!

どっかでピンとくるはず! って......


ピンとこられちゃ困る。


なるべく記憶に残らない反応を返さなきゃ。

つまり、抵抗しすぎるのもNGってことなんだよね。

あーもう、本当に勘弁してよね。


「えっと、海野です」

「下の名前は?」


聞くの?

あの子の時は聞いてなかったじゃない。

わたしの回から聞くことにしたとか?

フルネームだと本名にかなり近いから、なるべく言いたくなかったのに。

早くもピンときた! とかでないことを祈りたいけど。


「あかり、です」

「えっ、朱里?」

「......そうです」


響きが少しでも変わればと思って漢字を意識せずに言ったけど、やっぱり無駄な足掻きだったみたいね。