授業が始まってからも、わたしは挙手なんて絶対にしない。

当てられたときに正しい答えを言うだけ。

間違えると多少視線が集まるからね。

テストの時に間違えて置けばいいの。

それと、わたしは先生と目も会わないようにしてる。

先生の頭とか、ネクタイとかを見てる。

目があうと当てられる率が高くなっちゃうから。

お陰でわたしが授業中に発言するのなんて、一日に一回あるかないか。


対して真希は正反対。

問題が解けると嬉しいのか「はい! はい!」と声を上げて手をあげる。

で、三回中二回は間違ってる。

「あれ? おかしいなあ?」なんて言う天真爛漫って言葉が似合いそうな様子に先生が真希のノートを覗きこむ。

それで間違ってる箇所を指摘して、真希の「そっかあ!」って言葉に嬉しそうにする。

教師からしたら真希みたいな生徒は教えてて気持ちいいんだろうね。

できれば真希にはあまり目立たずにいてくれると嬉しいんだけど、こんなところも見てて楽しいからなあ。

ちょっと複雑に思いながら放置してる。

今までのところわたしまで目立つような事態にはなってない、っていうのもあるけどね。

現状維持でもまあ、問題なし、ってこと。


授業の合間の休み時間も大抵は朱里と話して、授業になればまた影を薄くする。

そうしてればあっという間にお昼休み。

お弁当を持ってきてる人たちは教室に残り、食堂で食べる人は教室を出ていく。

わたしと真希は食堂派。

この学園は食堂のメニューも充実してるから、お弁当よりも飽きがこない。

ただちょっと割高かな。

わたしはそのくらいのお金を気にしなきゃいけない環境じゃないけど、態々わたしにあわせてお弁当から乗りかえた真希は大丈夫なのかな、と思う。

聞いても大丈夫、大丈夫って笑うからもう聞かないけどね。

あんまり心配しすぎて追及するのも「お前貧乏だろ」って言ってるみたいで失礼だと思うし。

わたしが考えたって仕方ないことだと思うしね。

案外裕福なお家かもしれないし。

聞きはしないけど。

だってわたしはどうなの? って聞き返されるだろうし。

できれば嘘は少ない方がいいな、なんて今更だけど。


「朱里、見て見て。サツマイモのパフェが新登場! だって。 780スロウ」

スロウってお金の単位ね。

そのまま円だと思ってくれれば、特に支障はないよ。

で、真希のそのキラキラした瞳は食べたいってことでしょ?

「割り勘する?」

「するする! ありがとう朱里、大好き!」

「はいはい」

よく告白するねえ。