あたたかい場所


「失礼します」

スタジオのドアをノックすると、美紗の“どーぞー”という返事が返ってきた。


「あ!さと…青山くんやん」

聡、といつものように呼びそうになった美紗は、呼んだことも無い名前で僕を呼んだ。


きっと美紗も社長に口止めされていて、それを思い出したのだろう。


「お疲れ様です」
そう声をかけると、美紗の隣でベースを触っていたAYAMEさんが顔を上げた。

黒い大きな目で見つめられる。

「私、会ったことある?」

AYAMEさんは僕にそう聞いてきた。


動画サイトなどで見る限り、AYAMEさんは少年のような声をしていて独特の世界観がある人だった。



その声が僕だけに話しかけているのは、不思議で仕方なかった。