あたたかい場所


まだ照明が落ちていない会場。

もう誰もいない客席。

オレンジ色の黄身が、黒いステージにやけに映える。



舞台裏…

ある曲で美紗が演奏したキーボード。

その後ろにぺたんと座り込む人影が見える。



「美紗…」
美紗は僕を見るわけでもなく、声をあげるわけでもなく、静かだった。

静かに静かに、泣いていた。

美紗が泣いているところ、久しぶりに見た。



いつも強がりで、怖いもの知らずな美紗。

いつも笑顔で、あっけらかんとしている美紗。

東京に来て、アーティストになって、美紗は強くなったと思ってた。

見せないだけでホームシックにもなったんだろうし、こっちに知り合いだってきっといなかった。



それでも美紗は東京で、音楽をやるために頑張って来たんだ。

HOT HEARTで音楽をやっていくために。


家族にも、友達にも頼れない。そんな中で頑張ってきた音楽。




それを今日、壊された。