「…はぁ、青山くん」
声が聞こえてきて横を見ると、ライブを見ていたはずのユリアさんが息を切らして立っていた。
「ユリアさん、どうしたんですか」
「私、ライブが終わったから、席を立ったの。
そのとき見ちゃった…」
「何をですか?」
「一番前にいた男の人が、美紗に卵を投げたところ…」
ユリアさんが泣きそうになりながら言う。
その言葉を聞いて、僕はギョッとした。
まさか、僕が座っていたあの席にいた人が…美紗に…?
一番前のチケットをわざわざ取った?
わざと、美紗を傷つけるために?
それだとしたら、本当に腹が立つ。
HOT HEARTのサウンドを、美紗の歌を、間近で感じることができる反面、少し手を伸ばすだけでなんだって出来
るような距離。
ステージと客席の近さを逆手に取ったんだな、美紗に卵を投げた男は。


