時の姫と月

「まぁ、行ってみればわかるよ」

僕は女性のため扉を開けてあげた。意外と紳士だろ?
女性は中へ恐る恐る入っていった。中は結構暗くて、静かだ。月の光が窓から差し込んでいる。

「まさか…、嘘…でしょう?」

女性は早足で部屋の隅へ。僕もついていってみる。そこには30歳後半くらいの男の人が横たわっていた。体にはたくさんの管がつながっている。規則正しい機械音が室内に響く。

「これが弟さん?」

「……は…い…」

ただ唖然と女性は男の人を見つめる。男の人は青白い顔のまま、ぴくりとも動かない。

「もう5年も眠っているんです」

う~ん、この様子だと…

「もう弟さんは長くないのかな?」

「……はい。…急に容態が変わって…このまま治療を続けても…一カ月は保たないって…っ!」

女性は泣き崩れてしまった。困ったな~。これからが本番なのに。

「泣かないでよ。うるさいから」

それに人に見つかっちゃう。

「なっ!!だ、だって!!あなたには関係ないことでも、私にとっては大切な弟なんですよ!!!」

面倒くさっ!!

「もう今の技術じゃ助からないって!!」

「何のために僕がここにきたと思ってるの?」

あっ、と女性は顔を上げた。

「弟の!!弟の病気を!!」

「ねぇ…?どうして僕が“交換屋”なのかわかる?」

「えっ…?」

女性は凍りついたように騙った。

「何かと交換しないと、弟を助けないってこと…ですか?」

「その通り!」

ふふふ♪面白くなってきた!

「君はなにをくれるの?目玉?脚?指?…ねぇ、なにをくれるの?」

女性は後ずさり、男の人が寝ているベッドに尻餅をついた。

「……体の…一部を…あなたに?」

「ふふふ♪そう、体の一部を僕に頂戴?」

ガリガリガリガリ。
口の中の小さくなったキャンディーを噛み砕いく。