「えっと、それじゃ、これ持ってくから」
「うん……頼まれたんだったら仕方ないよね……あぁ、でもその本まだ全部読み終ってないんだよねぇ……っ」
彼女は大げさに頭を抱えた。
それはつまり、「そこにある本まだ読み終わってないから持っていかないで」と俺に言っているのか。
「でもこれ、本校舎の方に返しておかないといけないだよ。読みたければ本校舎に来ればいいじゃん」
むしろ、本校舎の図書室の方が綺麗だし教室からも近い。
わざわざこの旧校舎に来て本を読む必要なんてないのだ。
「それじゃ駄目なんだよおぉう!お願い!その一冊だけでいいからここに残しておいて!!」
「はぁ…?嫌だよ。持っていかないと」
彼女は、先程頭を抱えていた手を顔に回し、またも大げさに泣き真似をし始めた。
あげくのはてには「うわーん!お母さーん!」なんて言い出したもんだから、俺は無視を決め込むことにした。
一人泣き喚く彼女の横を通りすぎ、カウンターの上に置かれている数冊の本を持ち上げ、ドアへと戻る。
すると、後ろから何者かに強く抱きつかれた。
というより、すがりついてきた。
いや、何者かなんて見なくても一人しか思い当たらないが。
「うわぁ!何してんの離れろ!!」
「いやー!まだその本読んでないの!続きが気になるのおぉ!」
彼女は後ろから俺を押さえつながら喚く。
いい加減イライラしてきた俺は、文句を言おうと思いきり後ろを振り向いた。
「……え」
振り向くと、そこには彼女の顔。
口をへの字に曲げて、俺を見つめるその目は赤く腫れていた。
まさか……
本当に泣いてた……?
